光らない鳴らない携帯電話を目の前まで持ってくると振り子のようにストラップがぶらぶらした。まるでロロのように、ぶらぶらふらふらあっちへ行ったりこっちへ行ったり。ストラップは留まりたいと思ったことなどないように揺れている。ロロは、ここに留まりたいと思った。だから足に力を入れて出来うる限りの力を込めてルルーシュの元に止まった。命をかけてもいいと思うほどの思いだったから、ストラップのようにゆるい弧を描いて死なないようにのらくら生きてきた自分の人生を曲げてしまった。
自らのふりこの紐を彼自身が切った。それは彼の命綱だったのに。
誰かが強く背中を押せば、彼は脆くも断崖絶壁から落ちてしまうだろう。彼を助ける手が見えない。ロロの目にはそれがルルーシュのように映っているけれども、実際は靄のようなものだ。存在がないものは彼を助けはしない。ロロがどれだけ命をかけようとも、それに見合ったものは返ってこない、そんな場所に自らを突き飛ばしたのも――ロロ自身だ。
(でも、後悔していない)
(後悔なんてしない)
(やっと、みつけたんだ)
小さい頃漠然と欲しかったものを、彼はルルーシュの傍に見つけたような気がしていた。それが何かは今もわからないけれども、ロロにはしっかりとわかった。説明しろといわれたら難しい、だけど絶対の本能が彼をルルーシュの元に惹きつけてやまない。それは、自分の力ではどうしようもないものだ。
憧れ、そんなものではない。真っ黒の世界で見つけた鮮烈な光のそのもののような。一度も日の光を拝んだことのない人間が見つけた小さな豆電球のようなものだとしても、それはまぎれもない明かりだ。
小さい頃は我慢できていたことが、この頃出来なくなってきている、とロロは苦笑した。どんどんと弱くなる自分がいる。時を重ねれば重ねるほど人恋しさが増えて、誰かに触れたくなる。一度触れれば、もう一度。もう一度。果てなんてあるのだろうか。抱えるさみしさがなくなることは、あるのだろうか?
心臓が止まるその痛みよりきっと、心の痛みの方をもうすぐ我慢できなくなる。
死ぬことよりも、ルルーシュから離れてしまうことの方が惜しくなる日がきっとくる。その日がくれば戻れない。
(でも、後悔していない)
(後悔なんてしない)
(やっと、みつけたんだ)
まるで自分に催眠術でもかけるようにロロは振り子を左に右に目で追って、何度も繰り返す。
紐が切れた振り子は無様に床に落ちるだけだ。――その落下時にどれだけ遠くへ飛べるかが、勝負なのだ、そう彼は思った。思おうとした。




20080806『振り子』