いつだって孤独を感じる僕の中心が兄の中に入ったところで固体である僕と兄さんはそれぞれ溶け出そうとしながらも結局はひとつひとつでしかないことをしきりにくり返し僕たちに教えてくる。それってもうそこで、僕たちはそれ以上にはなれないと言われているみたいで、とてもとても悲しい。何のために繋がろうと毎回毎晩腕を差し出すのかが僕にはわからない。けれども求めるのはいつだって僕の方だ。
フローリングの床は座ってたその場所だけぬくもりが残っていたけれども、それ以外はひんやりと冷えてでも僕の体にはちょうど良かった。
「兄さん」「兄さん」「兄さん」くり返し呼ぶたびに、何だか全てがウソのような気がしてしまって、けれども呼ばなければ僕の下にいる兄が消えていくようで、僕は腰を振りながら原始的に汗を流しながら、だけど心の中だけグルグルと凄い勢いで何かを考えていた。くだらないことばかりが頭の中をよぎって、両手で兄さんの顔を何度もゴシゴシと拭うように触ってみたり、胸の突起に口付けてみたり、だけど、それじゃあ足りないと髪を強引に掴んでみたりした。
「ロロ…、痛い」
「?」
覗き込むと、足が痛いと目線で伝えてくる。なるほど、僕の膝が兄さんの太ももを床に縫い付けるようにぎゅうぎゅうと押していた。
「ごめんね」
「いや別にい……あっ」
足をずらすと中もずれるのに感じたのか、兄さんが吐息を漏らして、僕はふと笑みがこぼれた。僕がここにいる存在であるためのこの行為ならそれは成功しているのだと思えたからだ。僕が動けば兄さんにもそれは伝わって、僕はただひとり兄さんとだけこの時間を共有して、僕がここにいたという存在の証明をしてくれるのはたったひとり――こんなにこの世界には人間がいるのに動物もいるのに虫もいるのに、たったひとり兄さんだけなのだ。
「兄さん、もう少し足広げて」
たとえば、兄のこんな奥に届くのが世界でただひとり僕だけなのを誰も認めてくれなかったとしても、ルルーシュ・ランペルージという人間しか僕のことを一生覚えていてくれないとしても、そんなルルーシュ・ランペルージが本当はいない人間だったとしても、僕はそれでもいいかなと愚かにも思ってしまう。
「兄さん、兄さん、可愛いね」
「…は?」
喘いでた兄さんが素っ頓狂な声を出して、僕はにこっとした。
「兄さん、兄さんも僕に言って。かわいいね、って言って」
細かい髪は僕の髪よりツヤツヤしてところどころ紫の色を溶かして輝かせながら、僕の爪を撫でて指をすり抜けていく。
頬を近づけてすりつけて、耳元でそっとお願いしてみる。兄さんはうーんと考えるように唸ると、ふいっと顔をずらした。
「言って」
「イヤだ」
「言ってよ」
両手で顔をつかまえて、じっと目を見ると少しだけ困ったように眉を動かす。恥ずかしいだろ、と口元だけが動いた。その口にチューと口付けて、言って、とお願いする。
「ね?一回だけ」
視線をずらして兄さんは唇を尖らせた。それから、僕の顔を両手で挟んでグイッと自分の方へひく。目と目の間5センチもないところで、
「ロロ、かわいいな」
とぼそっと言った。
僕は嬉しくなって兄さんにしがみついた。
誰もいない場所に行く方法を必死になって死に物狂いで探している孤独が好きそうな兄が本当は誰かたったひとりの腕の中に沈んで意識すら殺してもうなにもかも忘れ去り死にたいと思っているだろうことを僕が正確に知っているのは、僕と兄さんが同じイキモノだからだろうと僕は自惚れているけれども、同類にはなれても同じにはなれない寂しさを飼い慣らしているのはいつだって僕だけな寂しさを指の先から溶け出すように兄に伝えたいのは僕だけだ。――つまり僕だけがいつだってひとりで寂しい寂しい誰も助けてくれないと拗ねているだけな毎日なのだ。けれど僕の腕をつかんで助けて欲しいのは兄さんだけ。兄さんとだけの世界に行きたいと心底思ってしまう僕は壊れてしまう。だけど。
僕は兄さんがリンと立っている姿が好きだ。それを支える地面が好きだ。この世界が好きだ。だって兄さんを生んでくれたのだもの。感謝したいわけではない、頭を地面にこすりつけたいわけでもない、だけど、兄さんをこの世界に引き留めていたいとは思う。いつまでもこの世界に背を伸ばして、誰が敵になってもそうやって凛々しく生きていて欲しい。僕が初めて好きになった兄さんはそういう人だ。
僕の中心がはじめて兄の中を突いたとき、僕はあまりにその衝撃が大きすぎて死にたくなった。僕の無力さはいつまでも兄を貫いてもそのまま変わることはないのだろうと勘付いた。
でも凛と立つ兄さんですら、僕は可愛いと思ってしまう。このまま、僕の腕の中でしおれてしまってもいいのに、と思ってしまう。
「兄さん、可愛いね」
「いい加減にしろ」
照れてるのか顔がさらに赤くなってる。僕はもっと兄さんが僕にかわいいね、と言ってくれればいいのになと頭を撫でた。
けれど同時に、僕がこの世界に兄さんを引き留める術になればいいのに、と僕の本心はにこりともしないでそう、心の裏側でつぶやいた。僕の体から出る精子という名の白い液体が、痺れ薬だったら、乾燥剤だったらいいのに、と。




20080909『虫ピン』


エロエろにならなかった…(´;ω;`)