ロロはかぼちゃを頭にかぶろうとしていた。
「……ん?」
耳の真ん中あたりの出っ張りで、なかなか上手くかぶれない。それでもよいしょっと息を吸って止めてグイグイッとオレンジ一色の中に入ろうとする。そうすると少しだけ進む。カボチャを掴んでいる指先は、綺麗に洗ったけれども半日ずっと中味をけずっていたせいでうっすらと橙色に染まっていた。
「……あれれ?」
途中で飽きて疲れて、大切な出入り口を予定の半分しか削らなかったのがいけないのだろうか。さっぱり頭がつっかかって進めない。
いったん出て、もう一度削りなおそうと、ロロは今度はカボチャの中から頭を出そうとしたが、それすら無理だった。
「…もしかして、ハマった?」
自分の呟きがいつもの何倍もの大きさでカボチャの中に響いて鼓膜を震わせる。
……こんな中途半端なパンプキンなんて嫌だ、とロロは思う。
ちょうど、口だけが出ている状態だ。鼻にカボチャの繊維があたってくすぐったいというかくしゃみがしたくなる。
(気付かなかったけど、カボチャって、結構においがキツいなぁ……)
咲世子が一週間に一度は作る夏の風物詩冷たいスープは特ににおいなんかしなかったから、気付かなかった。そういえば、昨日の食卓のカボチャのスープは温かった。一気に冷え込んだハロウィンの前日。
ハロウィンが来るたびに毎年こんなに一気に寒くなったっけ、とロロは首を傾げようとして体勢を崩した。パンプキンのせいで頭が重くなっていたのに気付かなかったのだ。
「うわっ」
「…おっと」
首の下に温かな腕の感触を感じて、そのままロロは転ぶことなく真っ直ぐ立ち直った。
「危ない、……ロロ、何やってるんだ?」
「兄さん?」
パンプキンの目もきちんと削ったけれど、きちんとかぶれなかったロロの額の辺りに空いている。ロロの目の前には、オレンジというか、赤色に近い色が広がったきりで何も見えない。
「ひとりハロウィンか?学校であんなにやったのに、足りなかったか?」
呆れたような面白がっているような声に、ロロは膨れる。
(……ひとりじゃないもん)
一人で季節のイベントなんかやるわけがない。
(あ、そっか)
去年も一昨年も、ロロは特に覚えていないのだ。いつから寒くなったなんて覚えていないし、ハロウィンがあったことすらロロは覚えていなかった。そういうものすべてに興味がなかった。
「兄さんとやろうと思って」
ルルーシュとふたりでハロウィンをしようと思った。ルルーシュとの思い出をひとつでも増やそうと思った。そのために季節の行事を調べて、自分から大きなカボチャを探して両手をオレンジ色にしてまで掘って、今そのカボチャに頭を突っ込んでとれなくなっている。
「俺も?……あんなにやったのに?」
「学校は、学校。ランペルージはランペルージ!」
「ははっ。…お前、とりあえず間抜けな格好してないでとりあえずそれを脱げ」
笑い声にむっとしながらも、一生懸命力を入れて上に引っ張る。
なんだ、と声が聞こえて、ロロのその手にルルーシュの手が重なった。
「脱げないのか?」
「あ、……うん」
兄の声が近くに聞こえる。近くなのにカボチャを通して遠くから鼓膜に響く。ちゅっとコツンとカボチャに何かが当たった音がして、そんな音が響いた。
「…兄さん?」
「これ脱いだら、……下も脱いだらどうだ?」
「ちょっと、兄さん!」
「トリックオアロロ?って聞いてくれるか?」
「……兄さん、」
「ほら、早くカボチャを脱いで、俺とハロウィンのお菓子を食べよう。イタズラする代わりにたくさんもらってきたから。……イタズラはロロだけにするよ」
カボチャの中に響くルルーシュの言葉に、カボチャの赤色が首筋にまで移ったロロはしばらくそのまま固まっていた。







20081031『ハロロイン!』


!!!!Trick and Rolo!!!!