C.C.は顔をしかめた。あまりにも甘い。――甘すぎる。
「……なんだこれは。砂糖の固まりか何かか?」
「あー!ちょっと、やめてくださいよ!」
怒ったロロがボールをC.C.の手の中からひったくると彼女はなおもロロの方に舌を向けた。
「お前、やっぱり、味音痴なのか?」
「いつもピザばっかり食べてるあなたに言われたくありません!」
ぷんぷん怒ったロロはさらに白い生クリームとも卵の中にただ砂糖の塊をぶち込んだものともつかないものを泡だて器で混ぜ始めた。C.C.はうえっとジェスチャーをすると、お手上げだと鼻をつまんだ。ロロはそんなC.C.を横目で見て、ふんっと鼻を鳴らして、刻んでおいたチョコレートをその中にどんどん溶かしていく。ロロは四方八方にクリームを飛ばしていたが、それでも四苦八苦しながらやっているうちに、クリームはみるみるチョコレート色になり、その色は少しだけツヤツヤしていて、C.C.も美味しそうだと思った。――甘すぎるけど。
「おい、オーブンがチンって言ったぞ」
「どうも!」
大きなお世話だという風にロロが返事をするのを、C.C.は親切で言ってやったのに、とぶつくさ言いながらそれでも面白いものを観察するような瞳でランランと見ていた。
クリームを小分けにして冷蔵庫にしまうと、焼きあがったスポンジの四辺をロロは不器用に落とした。
(おいおい、斜めになっているぞ……)
しかしまた何か言うと怒るので、C.C.は黙ってニヤニヤしている。慣れない包丁を使い、切込みを入れているロロの姿は、けなげ、そのものだ。つい手を貸してやりたくもなるが、C.C.は自分の不器用さを知っている。料理などしたことは数えるほどしかない(昔々に、やらされていたことはあるがその度に主から折檻を喰らったほど酷かった)から、もしかしたらロロの方が上手いかもしれないと悔しいが薄々思っている。それに、ロロはこのケーキをひとりで作り上げたいだろう。自分の力で、愛情をこめて作りたいに違いない。それを知っていたから、C.C.は特に何もしなかった。
チョコレートクリームをスポンジの上に均一に塗ろうとしてボタボタ落とすロロを見ても、フォークで木の幹の模様を描こうとして、スポンジを貫いてしまっても、ニヤニヤ見ているだけだ。ロロもロロで、C.C.が近くにいることも忘れてその作業に没頭している。きっと、大好きな兄と共にこのケーキを囲む自分の姿を思い浮かべて一生懸命に違いない。
(まあ、一年に一度、みんながプレゼントをもらえる日だしな)
C.C.は出来上がり直前のブッシュ・ド・ノエルを前にして寂しそうに笑った。実際、少しだけ寂しかった。
(自分で自分にプレゼントをやるなんて、洒落てるじゃないか、ロロ)
ロロにとって一番の贈り物は、大好きな兄と過ごす時間に他ならないだろう。それを計らずともかなえようと、ルルーシュのために一生懸命ケーキを作るロロは、もうすぐ兄との二人きりの時間を手に入れられる。その努力によって。
誰かのために精一杯やることは、自分に返ってくるってことわざがあったかな、とC.C.は苦笑をした。それでは、誰のためにも動いていない自分は、動けない自分は、本当に欲しいものをこの手から零れ落としているのだろうか。ロロのように一番ほしいもの、大切なものがわかっていたのなら、どれだけ良いだろう。けれど、それに付随する寂しさは、また変わらないかとC.C.溜め息をついた。どんな自分になったところで、一生埋まらないものはあるものだろう。他人をうらやんでいても仕方ないのだ、とC.C.は思う。
それでも悔しかったので、ケーキの端っこを盗み食いしてやった。それはロロにすぐに見つかって、首を絞められたけれども、C.C.は笑った。
「メリークリスマス、アイアムハッピーウィズユーって言ってやるといい」
「言われなくたって!」
C.C.は声を出して笑った。――ケーキは甘くて甘ったるくて、美味しかった。きっとルルーシュも気に入るだろう。







20081225『ド!ノエル』


I can be with you at Christmas and am happy.