蕎麦がグネグネしている。ロロの頭も同じようにグネグネしている。かき混ぜると液体の上に浮かんでくる一本一本が煩悩の塊をした白蛇に見える。
(……あれ?でも白蛇って、縁起良いんだよね?)
蕎麦は灰色なのにどうして白色に見えるのだろうと慣れない箸を扱いながらそう思う。きっとつゆの色が関係しているんだろう。
「ロロ、早く食べろ」
「そうだぞ、年を越してしまう」
ルルーシュの言葉に頭を上げた。隣で何か言っている緑の頭の女の言葉は無視するにしても、ロロの蕎麦が伸びないように心配してくれるなんて兄はなんて優しいのだろう!とロロはうっとりとした。
「……ルルーシュばかり見ていて、年を越し終えても食い終わらないかもな」
C.C.が隣でぼそっと呟いた言葉はしっかりとロロの耳に届いていて、大きなお世話です!とつい構ってしまった。C.C.はニヤッとする。
「ルルーシュお兄さま、私の分は後で良いですから、先に食べてしまって下さいな」
「俺のことは気にするな」
「でも……」
蕎麦は箸で食べるものだ!とルルーシュが主張するので、ナナリーにも箸を配ったが、ナナリーは箸が使えなかったし、目が見えないので使い方もわからない。それで、シスコンのルルーシュが甲斐甲斐しく一口一口熱に最新の注意を払って彼女に食べさせていた。そのせいでルルーシュの蕎麦は伸びる一方だったが、可愛い妹のため自分の分はもちろん後回しでいいのだと年の終わりもいつものように世話をしている。けれど、ナナリーにはそれが申し訳ないらしい。でもお箸は口実だろうなとなんとなくロロは思う。ルルーシュはナナリーが可愛くて可愛くて仕方がないから、何でもいいからお世話をしてあげたくてたまらないのだ。
――そして、それはロロも同じ。
「大丈夫だよナナリー!僕が、兄さんに食べさせてあげるから!」
「まあ!」
「ロロ、俺のことはいいからお前は自分のを……んむっ美味いっが!」
ふーふーしてルルーシュの口に短くして蕎麦を放り込んであげる。口をもごもごさせながらナナリーの分をふーふーするルルーシュは何だかちょっぴり可愛かった。
「……仕方ないな」
「え?……ちょっ、シーつ……食べれる!ってわぁんぐ」
「すまないすまない、頬についたな。どうだ、私が食べさせてやったんだ、美味しいか?」
ロロの口にいきなりC.C.から放り込まれた蕎麦は熱かった。ロロは涙目になりながらC.C.を睨む。ナナリーはにっこりした。
「まあ……皆さんで食べさせあいっこですか?楽しそうですね。私もお箸が使えればC.C.さんに食べさせてあげられるんですけど」
「そんなこと、ナナリーはしなくていいんだ!C.C.は放っておけ!」
「ひどい兄貴だな」
「そうだよナナリー、兄さんの言うとおりしーつ…なん…んむっぐっちょっと」
「うるさい口だな、ほら、ロロ、アーン」
「やめっ、!」
「……ロロお兄さま?」
「C.C.、お前!ふーふーしてやれ!ロロの口に火傷が!」
「そうだ、ナナリー。お箸が使えないならフォークで私に食べさせてくれてもいいぞ。私はルルーシュと違って頭が固くないからな」
「まあ! じゃあ、ふーふー……」
遠くで除夜の鐘が鳴っている。イレブンの年越しも楽しいかもしれない、とロロはちょっぴり思った。グネグネしていた気持ちは家族で騒いでいる間に消えてしまった。来年も三人で仲良く出来たらいいなと思う。
(仕方ないから、C.C.も居てもいいか。じゃあ四人で平和に暮らせますように)
除夜の鐘に合わせて願うのは些細なことだ。イレブンには八百万の神様がいるという、その膨大な数のうちの一人が叶えてくれればいい、とロロは思う。
(初夢に兄さんの夢を絶対見るぞ!)







20081231『年越し蕎麦』


怒涛の2008年でした。楽しかったなぁ(´v`*)お世話になりました!